【ブルキナファソ】



『村の井戸端』 No.24

 うだるような車内の暑さから解放されて、外へ飛び出す。しかし、外界もそれに劣らぬほどの猛暑だ。村へ入ると、小さな井戸が目に留まる。三、四人の女性たちが、水を汲み上げながらお喋りをしている。これが本当の井戸端会議だ。でも、水を調達するまえに、そんなことを考える余裕はあまりない。彼女たちに頼んで、水をわけてもらう。
 手間はかかるけれど、水自体は豊富らしい。ロープが付いた桶のような器をたぐりよせて、自分で水を汲み上げる。まず、手持ちのペットボトルをいっぱいに満たす。そして、たらふく飲んだあと、最後に頭からかぶる。うーん、いい気持ち。やっぱり井戸水は冷たくて最高だ。



『マンゴーの木の下で』 No.25

 雄大な景色。大きなマンゴーの木が所々に見受けられる。濃い緑色の枝葉にたくさんの黄色い果実をみのらせている。ちょうど今が旬なのだろう。
 広々とした木陰で大勢の女性たちがくつろぐ。日中は干からびてしまいそうな猛暑だが、陰に入ればまだ幾分かは過ごしやすい。彼女たちはマンゴーの入った籠を傍らへ置いて、世間話に興じている。とても楽しそうなのんびりとした情景。暑さでイラついた私に安らぎを与えてくれる。
 バスが停車すると、マンゴーを山盛りにした籠を軽々と頭にのせる。そして、思い思いにバスへと近づいていく。その一つを受け取ってかじる。すこし酸味がかった甘い果肉が、喉の渇きも潤してくれる。



『悲惨な冷房車』 No.26

 ワガドゥグゥへの移動。不思議なことに冷房車だ。これで喜んではいけない。西アフリカで冷房が効いているバスなどは見たことがない。それに、大型だが随分とくたびれた車体。どこかの国で使い古したものを持ってきて再利用しているって感じだ。なにか嫌な予感がする。
 案の定、冷房なんて全く効かない。でも、それは初めから予想できていたこと。だがなんと、このバスは窓が開かないのだ。そういう仕様らしい。非常時には窓ガラスをはずして脱出するやつ。運転席の窓しか開けることができない。こんなバスを設計した奴を恨めしく思う。先程、ちらっと見たときには気付かなかったのだ。たとえ、気付いたとしても諦めて乗るしかないわけだが……。
 外の気温は摂氏四十三度。閉ざされた車内で超満員状態ともなれば想像を絶する悲惨さだ。このままでは、蒸し上がって肉マンにでもなってしまいそう。さすがに暑さに強い現地の人たちも汗だくで苦しんでいる。
 こんな状況のためか、バスは途中で何度も休憩の停車をしてくれた。けれどさらに、このバスが故障。動作不能となり、またもや野宿をするハメに。しかし、あのままあのバスで移動するよりはマシだったかもしれない。



『暑さにリタイア』 No.27

 猛暑のなか、ワガドゥグゥの街をめぐる。涼しいうちにと考えて、朝はやく歩きはじめたのだが、二時間もしないうちに休憩してしまう。摂氏四十五度。こんな状況では、なにもしなくても体力を著しく消耗する。出店でジュースを飲んだり、木陰で座り込んだり。三十分ごとに休まされているだろうか。それでも、いろんな場所を訪ねてまわる。気力が萎えれば、それで終わりだ。
 民芸品の工房を後にして、マルシェへ。普段ならばひつこい土産売りや物乞いにも全く平気な私だけど、ちょっと強引な勧誘にも怒鳴りたくなってしまう。街なかをうろうろと散策。しかし、この炎天下、通りを歩く人の姿はほとんどない。確かに、白昼、街を徘徊するなんて自殺行為かもしれない。
 午後二時すぎ、さすがの私もリタイア。ブルキナファソの太陽に負けてしまう。私の足をとめるなんて、なかなか手ごわい相手だ。自分の安宿に戻ってばてているのもしゃくなので、高級ホテルへ出向く。
 クーラーがあるでは。何日ぶりだろうか。そこのプールでのんびり。白人が多い。黒人も金持ちそうだ。バーのビールが小瓶で800CFAフラン(百五十円)。高い。街中の三倍以上もする。でもまあ、ただで遊ばせてもらっているのだから、これくらいは奉仕しないと悪いような気もする。



『途中乗車』 No.28

 ボボデュラソへ到着。三日前に訪れた街だ。懐かしい気もする。窓から白人のバックパッカーを見つける。旅行者は彼だけのようだ。大勢の人々が乗降口につめかける。しかし、すでに車内はすし詰め状態。そんなに多くの人が乗れる余裕はない。白人の彼も、何度か試みてははじきだされる。それでも必死に乗り込んできたので、まわりをつめて身の置場を確保してあげる。私は窓際に座っているが、もちろん彼に座る場所などない。
 彼はドイツ人旅行者。英語よりもフランス語のほうが得意らしい。いまは会社を辞めたばかりで、四ヶ月ほど西アフリカを旅するそうだ。
「日本の会社は休みが少ないって聞いてたけど、一ヶ月も休暇がとれるんだね。知らなかったよ」
「そんなこともないけどさ。けっこう苦労してるんだよ。それにしても、ボボデュラソから列車に乗るなんて無茶だよ」
「うん、ちょっと甘かったね。こんなに凄いとは想像してなかったから。やっぱり、始発駅から乗るのが基本だね」
「ぼくもボボデュラソから乗るほうが都合がよかったけど、わざわざルートを考えてワガドゥグゥから乗ることにしたんだ。ぼくの場合、列車に乗るってのも目的の一つだったせいもあるけどね」
 とにかく、猛暑プラスこの混雑。うんざりする。じっとしていても汗が吹き出す。列車が走って風に当たっても、汗がひくことはない。地元の人の話では、最近の暑さは異常なんだとか。移動好きの私は、混雑はさほど気にならないが、この凄まじいまでの暑さには閉口する。それでも、一日中雨が降り続いたり、雨期で交通が寸断されるよりは、ましかもしれない。



『買いだし列車』 No.29

 この列車は、さながら買い出し列車といった感じだ。担ぎ屋、と呼んでもいいかもしれない。多くの人が抱えきれないほどの荷物を持ち込んでいる。ブルキナファソはコートジボアールに比べてかなり物価が安い。そんなわけで、たくさんの商品を運んで売りさばいているのだろう。
 駅へ停車するたびに、その土地の人たちが多量の品物を売りにくる。暫くのあいだ、列車のまわりは、にわか市場と化す。その交渉風景は凄まじい。成立すれば、どんどん荷物を運び込む。車内は空いているわけではない。超満員の混雑、灼熱地獄。それでも、みんなお構いなし。それも、そんな人が一人や二人というわけでもない。一つの車両に何十人も乗っている。楽しいながらも悲惨な状況だ。
 マンゴー、タマネギ、ニワトリ……。商品は駅によって異なる。たぶん、その土地で豊富にとれる名産品なのだろう。一つの駅で複数の品物が取引されることは少ない。だけど、べつの駅でも同じものが取引されることは多い。
 違う土地では、車内に積み込まれている品物を、大勢の人が駅へと買いにくる。そして多量の商品を仕入れて帰っていく。きっと地元でそれを売って商いとしているのだろう。担ぎ屋たちはそんなことを幾度となく繰り返しながら列車の旅を続ける。
 そんなこんなで、列車内は人と荷物で溢れんばかり。荷棚や通路はもちろん、他人の座席の下や足元、連結部や機関車にまで詰め込んでいる。トイレでさえ例外ではない。用を足すのもはばかるようなトイレにも天井まで積み上げられている。従って、車内のトイレは使用不能だ。
 車外へ出るときなど、足の踏み場もない通路の品物に注意して歩く。だが、「気にすることはないよ」と持ち主が言う。確かにみんな、品物を踏んづけながら進んでいる。マンゴーなどは潰れてしまうのでは、と躊躇しつつもその上を乗り越える。ニワトリたちもけっこう騒がしい。とくに明け方ともなると、すべてが高らかに鳴きはじめる。迷惑っぽい気もするけれど、旅の気分も味わえる。なかなか騒然とした面白い列車だ。



『懐中電灯』 No.30

 超満員の列車。立ったまま眠っている人も多い。夜になっても一向に涼しくならない。
 国境の駅へ停車。荷物や人を踏まないように注意深くあるく。この列車には車内灯がないのだ。勿論、バスなども車内灯が正常に機能することはほとんどない。道端で懐中電灯や電池が売られ、地元の人がそれを持ち歩く理由でもある。当然、旅行者である私は、常に小型の懐中電灯を携帯している。しかし、あまり役には立たない。地元の人たちはみんな大型なのだ。頼りなさげに歩いていると、まわりの人が足元を照らしてくれる。
 駅で停車しているあいだ、車外へ出て休憩。車内の熱気を避けて外の空気に触れたり、適当にトイレを済ませたり、食料や水を調達したり。みんな思い思いに解放されて過ごす。




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