【ガンビア】



『入国係官』 No.12

 殺風景なイミグレ。ビザを準備していたが必要ないらしい。ほとんどノーチェックで入国スタンプ。この国はある程度の英語が通じるから意外に楽だ。係官から、たわいもない世間話をいろいろと訊かれる。早く移動したいのだが、強引に話題をもちかけられて喋りつづける。
「街まで送ってあげるよ」
 と、言われ、オフィスへ導かれる。彼の仕事はもう終わりらしい。べつにそんなつもりもなかったけれど、どうやら気に入られてしまったようだ。
 オフィスには二人の男性と一人の女性。若くて可愛い娘だ。私の煙草で話がはずむ。大抵の地域では、煙草はコミュニケーションのきっかけになるものだ。みんなで記念写真を撮ってからその場を後にする。
 ここから街までは二十数キロはあるだろうか。田舎の風景や村の様子を眺めながら優雅に移動。なかなか快適。擦れ違うタクシーなんかよりもよっぽどいい車だ。ついでに街の主要ポイントも案内してくれる。といっても、めぼしいものは何もない。
「ぜひ、今夜はうちにきてくれ。御馳走するよ。八時に迎えにくるから」
 自由な時間がいっぱい欲しいし、なるべく約束はしたくない。あまり乗り気ではないけれど、説得されてしまう。
 彼は自宅で色々と御馳走をしてくれる。この国や街のことも教えてくれる。やや強引なところもあるけれど、とても良くしてくれた。いい出会いだったのかもしれない。



『ガンジャとジキジキ』 No.13

 モスク裏の貧民街をうろつく。狭い路地。密集した粗末な家々。共同の炊事場で衣服や野菜を洗う女性たち。子供はみんな、裸で走り回っている。道端に座り込んでいるおっさん。急須のような小っちゃなヤカンで茶を沸かしている。なぜか私にご馳走してくれる。
「この辺りは危ないから案内してあげるよ」
 若い兄ちゃんから声をかけられる。ちょっと胡散臭そうな奴。あまり相手にせずに歩きつづける。
「ガンジャ、どうだ。安いよ」
 この地域でもガンジャと呼ぶようだ。それほど興味もないので取り合わない。それでも、ひつこく言い寄って勝手に値段を下げてくる。
「じゃあ、おまえ、女は好きか?」
 当然だ。女が嫌いな男なんて滅多にいないはずだ。
「ジキジキ、いいぞ。いい娘、たくさん知ってるから」
 ここでもジキジキで通じるのか。だけど私は、女を買わないことにしている。それでもやはり、すこしは興味も湧いてくる。
「安いよ。見るだけでいいから。買わなくても問題ないね」
 あまりのひつこさに押し切られたわけでもないが、ちょうど宿への帰り道だから寄ってみることに決める。
 古びたビルの裏階段を上っていく。廊下の両側にはいくつかの小さな部屋。廃墟となった医院の病室って感じだ。しかも可愛い娘はいない。よくこれで商売ができるな、といった面持ちだ。しばらくここで過ごさせてもらう。この国には英語がわかる人も多いので話もはずむ。
「気が向いたら戻ってきてね。サービスするから……」
 と、笑顔で見送ってくれる。だけど、残念なことに彼女たちの相手をすることはないだろう。いつもながら申し訳なく感じてしまう。



『ガンビア河を越えて』 No.14

 首都バンジュルからフェリーに乗る。待合室は凄い人混み。一時間に一本くらい出ているが、もちろん時間通りに出航しない。デッキには人と車がごちゃ混ぜに乗り込んでいる。大きな河。向こう岸が見えない。漁をしている小さな木舟。手を振っている。大型の貨物船もいる。
 対岸の街バラへ到着。タクシーの客引きが多い。人を掻き分け、国境の村カランまでのバスを探す。
 十人乗りの小型トラックバス。ぎっしりと詰め込まれる。狭くて暑い。屋根には荷物のほかに鶏や山羊。ガタガタしてうるさい。上から水が落ちてくる。たぶん山羊のおしっこ。荷物がすこし心配だ。
 そんな状況で国境を目指す。途中、何度かポリスチェックを受ける。汗だくになりながらも、田舎の風景を楽しむ。相変わらず屋根は騒がしい。メーメー、コッコッ、と鳴き叫んでいる。




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