〜W体験記★西アフリカ東へ〜

 『鉄道の情景』

セネガル〜マリ

 私は列車の旅が大好きだ。ガンビアからギニアへ抜けないでダカールへと引き返したのも、列車でマリへ行きたいから、といっても過言ではない。

 車内は予想どおりの大混雑。ほとんどの人たちが持ちきれないほど多くの荷物を携えて乗り込む。座席や荷物の置き場所などで言い争いもおこる。
 駅へ停車するたびに大勢の売り子たちが頭に商品を乗せて売り歩く。みんなは窓から思い思いの品物を買う。駅にはかなり長い時間停まっている。時刻表など関係ない。ホームへ降りてのんびりしたり、買い物をしたり。また、そういった光景を楽しむ。車内の喧騒から解放されるひととき。だけど、構内も凄い混雑だ。すこし離れた木陰で寝ころがって休んでいる人も。列車が動きはじめると自分がいた車両へ飛び乗っていく。

 地平線まで広がる大地。バオバブが林立するなかを列車はぬけていく。農作業をする男たち。乾燥した固そうな土を耕している。通過すると手を休めて、こちらに向かってゆっくりと振る。べつの場所では大きな木の陰に腰をおろして休憩する人たち。木陰はみんなの憩いの場らしい。
 丘のような小さな山々も見られるようになる。停車駅には大勢の女性。彼女たちの衣装は色とりどりだ。いろんな果物や料理。駅によって雰囲気などが多少異なっている。時刻によっては様々な場所でお祈りをしている姿も見かける。これは車内でも例外ではない。

 ずっと近くにいた、マリのおばさん、ブルキナファソのおばあちゃん二人、マリのおじさん。そんな人たちと親しくなる。
 みんなが自分たちの食事をわけてくれる。わいわい喋りながらの食事。といっても私とは言葉が通じない。それでも色々と楽しく食べられる。もちろん手掴みだ。鶏肉の揚げ物、魚の焼き物、野菜の煮物。グチョグチョに混ぜて食べるので、ちょっと不潔で気持ち悪そうに見えるかもしれない。だけど、お腹は問題ないしなによりも旨い。
 ミネラル水のボトルに入っている赤いジュース。マリのおばさんが「自分のと同じだ」と言っている。でも、私のはジュースではなくてロゼだ。こんなたわいもないことを話しながら、車内での時間は過ぎていく。

 夜明けとともにセネガル河を越える。土壁の家々では、朝早くから女性たちが働いている。うろついている家畜たちが列車におどろく。
 ゴツゴツとした岩がいっぱい目につく。緑もかなり増えている。山あいの風景へと変わっていく。再びセネガル河を見おろす。河辺には洗濯をする沢山の女性の姿がある。
 干乾し煉瓦造りの四角い家。円形の土壁の家。村によって家屋の造りが変わる地域もある。そこで暮らす人々の顔だち。衣装や髪型などもちょっと違うような気もする。のどかな景色を眺めながらの移動。暑さはいっそう厳しくなっていく。

 車窓に見入っていると、蠅が迷い込んでくる。窓ガラスの表面をじたばた飛ぶ。「邪魔だな」と思っていると、十分くらいして窓の桟に落っこちる。ひっくりかえって手足をばたつかせる。段々と動きが鈍くなり、ついにピクリとも動かなくなる。そう、とてつもない暑さなのだ。窓ガラスは火傷しそうに熱い。金属の部分ならば火傷してしまうだろう。
 気象や時期によって異なるのだろうが、とにかく死にそうなくらいだ。そのおかげかどうか知らないけれど、蠅や蚊は思っていたほど多くない。乾期の終わりだからかもしれない。
 そんな車内の様相とはまるで関係なく、車窓には雄大な景色が流れている。

  〜 鉄道の情景 おわり 〜


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