〜W体験記★マチュピチュの光景〜

 『空中都市の神秘』

ペルー/マチュピチュ

 インカ最後の砦、密林の空中都市、ビルカバンバ。無数にそびえる峰々。アンデスの山々がアマゾンへと変わるあたりになるのだろうか。ウルバンバ川、やがてこの水は大アマゾンに流れ込み大西洋へと注いでいく。

IMAGE-DATA  インカ謎の空中都市マチュピチュ。高地クスコから、かなり下ったところに位置する。ここはもうアンデスの乾燥した風景ではなく、ジャングルっぽい雰囲気である。
 聳え立つ多数の尖った峰々。その一つにくねくねとした道筋が見える。観光用のバス道だ。まるでスイッチバックみたいな急な折り返えしの連続。私の頭上、遙か彼方。その頂がマチュピチュ遺跡である。

 バス道の真ん中を突っ切るように直線的でさらに急な登山道がある。やや湿り気を帯びた空気。うっそうとした木々が生い茂る。そんな中へと分け入っていく。意外とひんやりしている。大小の岩がゴロゴロした狭くて急な小道。人が擦れ違うのがやっとって感じだ。
 切り立った崖の道をよじ登っていく。ここを登る観光客も少しはいるようだ。涼しかったのもつかの間、すぐに汗が吹き出てくる。大勢の地元のガキたち。後をくっついてきたり、途中で待ち構えたりして、うるさく声をかけてくる。
「頂上までの荷物持ちを1ドルでどう?」
「インカコーラ一本1ドルね、飲まない?」
 土産物まで抱えている。ずーっと一緒についてきて、売り込み続ける奴まで。結構いい根性している。すこし邪魔にも思えるが、険しい山道を登る退屈しのぎにはなる。適当に相手をしながら足を進める。

 息を切らしつつも必死で歩く。あまりゆっくりしている時間はない。でもやっぱり、ちょっと辛いので立ち止まって休憩。すると、さっとドリンクを差し出す。
「悪いけど、いらないよ」
 面白いのが、行程によって値段を変えてくるところ。登りはじめと山頂付近では安く、五号目から八号目あたりが最も高く言ってくる。なかなか相手の心理をよんだ言い値だ。
 頭上にはチラチラとマチュピチュ遺跡の石組が見える。けれど、幾層にもなる段々とした石壁は一向に近づかない。歩いても歩いてもまだずっと遠くにある。
 眼下を見下ろせば、ときおり麓の駅や川の景色が小さく見え隠れする。まるで真下を覗き込むような感じ。かなり進んだのがわかる。やけに嬉しい。
 対面にある峰々を水平に眺める。それで自分の位置を認識。ある程度は客観的な判断基準にもなる。もう、七割がたは登っているようだ。

 やっと、遺跡の入口まで辿り着く。もう汗だくだ。なんと、脇に水道があるでは。飛びついてがぶ飲み。旨い。頭からもかぶる。真夏の気温なのに、冷蔵庫ででも冷やしたような冷たさ。私はどこの国の水でもたいていは飲んでいる。でも、ここの水が今までで一番おいしく感じられた。

 うっすらと帯状の雲が流れている。そのなかを遺跡の内部へと踏み込む。インカの巨石がじつに精巧に組まれている。全体的にまとまった緻密な構成。とても美しい。
 私は世界各地の遺跡に大変興味を持っている。勿論、インカの歴史やマチュピチュ遺跡のことも一通りは知っている。しかし、この光景を目の当たりにした瞬間、そんな生半可な知識や思考なんてぶっ跳んでしまう。

 見晴らしのいい岩の上へ登る。呆然と立ち尽くしてしまう。正面にワイナピチュの頂が聳え、両脇は切り立った崖。緑の峰に茶色く精密な石組。天高い真っ青な空、目の前を浮遊する幾筋かの白い雲。これらのコントラストが渾然一体となって幻想的な雰囲気を醸し出しているのだ。
 空中に漂う情景。なんともいえない不思議な感じ。インカの石組よりもその風景のほうが目に焼きついて離れない。どうしてあんな大きな岩をこの険しい山の頂きへ持ち上げられたのか、どうやってこんな場所へそんなにも緻密な都市が創れたのか。確かに不思議にも思える。
 でも、旅人がそれを云々する必要はないだろう。神秘は知らないままでいい。私にはそう感じられた。マチュピチュの光景を眼前にして……。

  〜 空中都市の神秘 おわり 〜


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