フランス/パリ
二十三歳のOLのお姉さん。まだ十代で大学生の私からみれば、立派な「大人の女性」だ。このとき私は、いろいろとわけありで、彼女のホテルの部屋でお世話になっていた。
べつに部屋をシェアしていたわけではない。偶然、仲良くなった彼女がツインの部屋に一人で滞在していた。そんなもんで、ただで居候させてもらっていたのだ。そうでなければ、貧乏学生の私が、物価の高いこのパリに長居できるはずもない。
そんな負い目もあってか、彼女のショッピングに付き合う羽目となる。どうしてもヴィトンのバッグが欲しい、とのたまうので、ルイヴィトンの店まで案内する。
当然、私の恰好では、なかへ入るのもはばかられる、といった感じだ。けれど、恐いもの知らずの若かりし私は、お構いなしにずーずーしく入っていく。
ようやく、彼女が気に入ったバッグを選び出して、支払いをはじめる。
ところが、なんと、お金が無いでは! べつに盗まれたわけではない。フランでないと受け付けない、とおっしゃるのだ。なんて、高飛車な……。まあ、そういうものならば食い下がっても仕方ない。郷に入っては郷に従え。人ごとなので、妙に物分かりのいい私だ。
彼女が持っているのは、多額のドルの現金とTC、日本円。それと二万円程度のフランにVISAカードである。
もめている彼女を横目に、ニヤニヤしていると、
「ちょっと、お金を貸しといてよ!」
突然そんなことを言われる。無論、この貧乏な私が、十数万円分ものフランを持っているはずがない。
すると今度は、
「じゃあ、悪いけど、ちょっと走って両替してきてよ」
なんてことを、仰せられるでは。一体、なに様だと考えているのだ……。
しかし、「夕食、御馳走するからさ」という甘い言葉に誘われて、ひと肌ぬぐことに。そして、1000ドルという高額の現金を手渡される。
じつは、1000ドルもの現金を手にしたのは、後にも先にもこの時だけ。百万円、二百万円ならば、持ったこともある。だが、いまだに1000ドルの現金を扱ったことはない。それによく覚えていないけれど、当時のドルのレートは、現在とは比べものにならなかったはずだ。
とにかく急いで銀行にて両替。無事にバッグを購入する。
もちろん、その夜には、ちゃんとしたレストランでディナーを奢ってもらう。だけど、もし私が1000ドルもの大金を持ったままドンズラしていたら、そのあとどうするつもりだったのだろうか。そんなに信用における人物にも見えないと思うのだけれど。
〜 ルイヴィトンの想い出 おわり 〜